2009年04月26日

イン・ア・サイレント・ウェイ/マイルス・デイビス


イン・ア・サイレント・ウェイ
In a Silent Way

マイルス・デイビス(tp)
ウェイン・ショーター(ss,ts)
ハービー・ハンコック(p)
チック・コリア(p)
ジョー・ザヴィヌル(p)
ジョン・マクラフリン(g)
デイブ・ホランド(b)
トニー・ウィリアムス(ds)

1969年録音


 電車の中で音楽を聴くので、ノイズ・キャンセリング機能つきのヘッドホンは手放せない。これはたいした発明だと思う。
 効果ももちろんだけれど、ぼくはまず、この製品を世に送り出した研究者や技術者の心意気を寿ぎたい。音は波だから、逆位相の波をぶつけてやると消えるはず、という理屈がまずあり、そりゃ理屈はそうだけどよえーっオマエ本気? みたいな迷いをふっきる思い切りがあり、試行錯誤を重ねてやっぱり理屈どおりってわけにゃいかないよなどうしよう、という逡巡があり、いや待てもうちょっとここをなんとかすればどうこう、というがんばりがあり、ついに確かに静かになったぞウオー、というブレイクスルーがあり、製品化にこぎ着けるためにもう一周分の挫折と努力と妥協とひらめきがあったに違いない。想像に過ぎないが、けっこう自信がある。一筋縄ではいかなかったからこそ、原理が単純なわりにいままで実現できなかったのだ。
 そしてもうひとつ、この製品に携わった研究者や技術者はきっと楽しかっただろうな、という点についても自信がある。世界に隠された理屈や道理を、目に見える結果として実現することほど楽しいことはそうはない。それはきっと研究者や技術者に限ったことではないと思うのだ。

 マイルス・デイビスがどんな風に音楽を創るのか、ぼくは知らない。でも帽子の中からウサギを取り出すみたいに、何もないところからいきなり、ひょいひょいと新しい音楽を生み出すわけじゃない、とぼくは思う。ここをこうして、あっちをこうすればかっこいいはず、という理屈がまずあって、それに基づいた設計図のようなものが提示されるのではないかと思う。プレイヤーたちは最初は半信半疑で、やがて驚きをともなった熱情を持って、それぞれの才能を音楽の中につぎ込み、その結果がぼくらの手元に届いて、世界を仰天させるのだ。それはある種の発明が具体的なモノとなって、世界をいくたりか変える過程と変わらない。

 だとすれば、これも同じだ。マイルス・デイビスとそのクルーは、きっと楽しかっただろうな。
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2009年04月21日

タフ・ダフ/ジャック・マクダフ


Tough Duff
TOUGH 'DUFF

ジャック・マクダフ(org)
ジミー・フォレスト(ts)
レム・ウィンチェスター(vib)
ビル・エリオット(ds)

1960年録音


 モダン・ジャズ界でのオルガンは、トランペットやピアノに比べたらずっとマイナーな楽器で、演奏者の数もそんなに多くない。それだけにジミー・スミスの存在が大きすぎて、楽器と演奏者が分かちがたく結びついているようなところがある。少なくともぼくの中では、サイコガンといえばコブラ、オルガンといえばジミー・スミス、みたいな短絡回路がすっかり出来上がっていて、ときどきオルガンがジミー・スミスを弾いているのか、ジミー・スミスがオルガンを弾いているのか、どっちだったっけ? と迷うことすらある。

 ぼくはジミー・スミスが大好きで、オルガンはそれだけ聴いていればそんなに困らない自信があるが、本当にそれでいいのだろうか、とふと不安になることもある。たとえばピアノならオスカー・ピーターソンを聴けば必要充分、と言い張るひとがいたとしたら、正しいかどうかはともかく、そのひとは損をしていることは確かだと思うのだ。ぼくも似たようなことをしているのではないだろうか。ひょっとしたら、オルガンにはもっと別の愉しさもあるのではないだろうか。
 そんなわけで、オルガンのアルバムは結構買ってしまう。

 タイトルとジャケット写真から、もっと無茶で乱暴な音楽を想像していたのだけれど(失礼)、蓋を開けてみたら思ったよりおとなしい。ジミー・スミスは何かの拍子に手綱がぶち切れて向こうのほうに突っ走っていってしまうことがあるけれど、このアルバムのジャック・マグダフはどちらかというと内に籠もるタイプみたいだ。鍵盤の上にうつむいて、頭のてっぺんから湯気を立てているのが見えるようだ。それにレム・ウィンチェスターの妙にひとごとみたいなヴァイブがかぶさるので、いまにも爆発しそうな、それでいて全然爆発しなさそうな、なんともいえない変な味を出している。

 やっぱりジミー・スミス以外も聴こう。

2009年04月13日

ジュニア/ジュニア・マンス


ジュニア
JUNIOR

ジュニア・マンス(p)
レイ・ブラウン(b)
レックス・ハンフリーズ(ds)

1959年録音


 中身のあまりない会議やら、聞いてないぞ、と言わせないだけが目的の交渉ごとやら、つまらない意地の張り合いの調整やらが続いて、じんわりと疲れた。こういう作業は世界が狭く感じられるのでイヤだ。まだ月曜日、というのも気の重い理由のひとつかもしれない。
 こんな夜には何を聴こうか、とiPodのダイヤルを回していて、ふとこのアルバムに行き着いた。そういやだいぶ前に買ったのだが、あまり印象に残っていない。どんなんだっけ? と試しに聴き始めたら、止まらなくなった。
 そうか、こういう気分のときに聴くアルバムだったのか。

 小さい声で、でもころころと転がるコオロギみたいなピアノ。野太いが前には出てこないレイ・ブラウンのベース。ドライブ感は強烈なのに、前のめりにならず、醒めた感じ。そのくせ神経質には聴こえない。押しつけないが、人ごとみたいな顔もしていない。相反する要素が涼しい顔で同居する、不思議な音楽だ。正直、どんな顔で弾いているのか想像がつかない。

 窓を開けたら、夜風と遠い街の音が入ってきた。それで気がついた。この音楽は夜の街の音が邪魔にならない。外に漏れて周りの迷惑になることもない。

 ジュニア・マンスは小さい音で聴いた方が味が出る。
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2009年04月12日

ビッチェズ・ブリュー/マイルス・デイビス


ビッチェズ・ブリュー+1
Bitches Brew

マイルス・デイビス (tp)
ウェイン・ショーター(ss)
チック・コリア(p)
ジョー・ザヴィヌル(p)
ベニー・モウピン(bc)
ジョン・マクラフリン(g)
ジャック・ディジョネット(ds)


1969〜1970年録音


 会社の近所にタンメンが旨い中華料理屋がある。ニンニクがきっちり効いていて、あ、これあそこのタンメン、とはっきりわかる味だ。評判になっているらしく、客のほとんどがタンメン目当てである。十数人の客が全員タンメンを食っていることも珍しくない。
 ぼくらは毎日タンメンというわけじゃないが、店の親父はそうはいかない。注文がある限りタンメンを作る。客が喜べばタンメンを作る。一日に何食作るのかは知らないが、昨日も、今日も、明日も、親父はタンメンを作り続ける。それが職人であり、プロである。ぼくらはその店に行きさえすればいつでも旨いタンメンにありつけることを知っている。

 でも、世の中にはそういう店ばかりではない。
 ある店では、次に何が出てくるかわからない。メニューがそもそもないし、「こないだのこれが旨かったから、また」という注文の仕方が通用しない。「ああ、そいつは、やめたんだ」と平気で言われればまだましで、親父にじろりとひとにらみされるのが関の山。「ぼく、ピーマンだめなんで」「ネギ抜いて」みたいなリクエストをするのは危険この上ない。
 結局のところ、無言で金をばん! とカウンターにたたきつけて、あとはカウンターをにらみつけたまま、ひそかに冷や汗を流しつつ、せめて食い物でありますようにと祈りながら、何かが出てくるのを待つしかない。当たるも八卦、当たらぬも八卦。当たっても当たらなくても七転八倒するのである。店も店だが客も客だ。

 店の親父の名前は、マイルス・デイビスという。
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2009年04月02日

ブルース・ア・プレンティ/ジョニー・ホッジス


ブルース・ア・プレンティ
BLUES-A-PLENTY

ジョニー・ホッジス(as)
ロイ・エルドリッジ(tp)
ヴィック・ディッケンソン(tb)
ベン・ウェブスター(ts)
ビリー・ストレイホーン(p)
ジミー・ウーディ(b)
トム・ウッドヤード(ds)

1958年録音



 こういうしたたるような楽園音楽を聴いていると、ここからまだ先がある、別の世界がある、と考えた連中がいたということが、どうもいまひとつ感覚的にのみこめない。それはたとえば手を伸ばせばいくらでも汁気たっぷりの甘い果実をもぐことができて、そこらの木陰に裸でごろごろ寝ていても風邪もひかなければ汗もかかず、虫に刺されたり獣にかじられたりする心配もないようなところに住んでいる連中が、どっか別のところに行きたい、と思うようなものだ。
 でも実際に、ここから出発して別のところにたどり着いた連中が何人もいたし、彼らが見つけたところもなかなか面白いところだった。青年は荒野を目指す、ということか。

 甘やかで、豊饒で、過剰で、爛熟した、レイン・フォレストみたいな音楽の楽園。危険があるとすれば、浸りきって外に出られなくなるという危険。
 聴きすぎると太るかもしれない。
posted by kiwi at 23:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | サックス