2009年10月18日

イヴニング・ウィズ・ジョージ・シアリング&メル・トーメ


Evening With George Shearing & Mel Torme
An Evening with George Shearing & Mel Torme'

メル・トーメ(vo)
ジョージ・シアリング(p)
ブライアン・トーフ(b)

1982年録音


 ぼくはメル・トーメに会ったことはない。電話で話したこともないしメールのやりとりもしていない。生で見たり聞いたりしたこともなく、それどころか、顔だってわかるかどうか怪しい。隣の家に越してきても、表札を見るまでは気がつかないだろう。
 にもかかわらず、メル・トーメってきっとこういう男だったんだろうな、という確信めいたものを持っている。粋で、しゃれていて、いたずらが好きで、物事にはあまり真剣になりすぎない、と公言しているくせに実はそうでもなく、でも途中で茶化すので人生相談には向いておらず、ひとの悪いところもあって、趣味のいい時計と服が好きで、金にはあまり興味がなく、朝寝坊で、酒はあまり強くなく、女たちには可愛がられ、ツッパリから優等生まで友達も多かったんだろう。
 もちろん、それはファンタジーだ。本当はメル・トーメは全然そんな人ではなかったのかもしれない。でもこのアルバムを聴いていると、そんなはずはない、メル・トーメがそういう人でなかったはずはない、と強烈に思う。
 そういうアルバムだ。

 ジョージ・シアリングは好きなピアニストだが、ポール・モーリア的に安全過ぎるところがあって、盛り上がりにはいまひとつ欠けるなあ、と思っていた。が、メル・トーメとのやりとりを聴いていて、ああ、このひとの音楽の持っているのりしろの部分が、ぼくには安全に聴こえたんだな、と気がついた。同じ仕事をするのでも、精一杯でしゃかりきになるひとと、余裕しゃくしゃくで片付けるひとがいる。余裕派に対して、もっとがんばって仕事しろよ、とイラつくようなものだったのかもしれない。
 驚いたのがベースのブライアン・トーフ。この人はどうしてもっと有名にならないのだろう? ぼくが知らないだけなのだろうか?
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2009年10月11日

ナウ・プレイング/エロール・ガーナー


Night at the Movies
Now Playing: A Night At The Movies & Up In Erroll's Room

エロール・ガーナー(p)
イケ・イサクス(b)
ジミー・スミス(ds)
ジョゼ・マンガル(perc)

1964年録音


 たとえばテニスの選手が、ラケットの先で足下のボールをひょいとすくいあげることがある。本人は何の気なしにやっているのだろうけれど、同じことを素人がやろうとしても簡単にはいかない。道具が身体の一部になるというのはそういうことで、ラケットの先端まで神経が通っているからこそ、強烈なサービスや狙い澄ましたロブを繰り出すことができるのだ。

 エロール・ガーナーを聴いていると、ぼくはそういうテニス選手を見たような気分になる。ピアノが、というより音楽そのものが、このひとの利き腕のようだ。どうひねればどうカーブするか、どんな強さでインパクトすればどうバウンドするか、そういうことをエロール・ガーナーは知り尽くしているのだ。理屈ではなく、自分の指と耳を使って。だからその演奏がどんなに変幻自在でフルスロットルであろうと、その一方で余裕しゃくしゃくで、笑っちゃうくらいリラックスしている。


 2in1だけれど、iPodで2枚に分けて聴いている。「ナウ・プレイング」は題材が映画音楽。こんなに可愛い「As Time Gose by」はあんまりない。
posted by kiwi at 12:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | ピアノ

2009年10月06日

スピリット・オブ・セントルイス/マンハッタン・トランスファー


スピリット・オブ・セントルイス(サッチモに捧ぐ)
The Spirit of St. Louis

ティム・ハウザー(vo)
アラン・ポール(vo)
シェリル・ベンティーン(vo)
ジャニス・シーゲル(vo)

2000年



 ぼくはCDばっかり聴いている引きこもり系のジャズ・ファンで、ライブにはほとんど行かないが、それでもマンハッタン・トランスファーは一度見てみたい。ライブがめっぽう楽しい、という噂はよく聞くけれど、CDを聴いているだけで不思議とステージの様子が目に浮かぶ気がするのだ。きっとここはこんな風にステップを踏んでいるんだろう、ここでくるっとターンをきめて、ここではこんな風に肩をすくめて、ウインクの一つもして見せるんじゃないだろうか。これは楽しくないはずがない。

 そんな風に思うのはたぶん、マンハッタン・トランスファーの音楽がある型にぴったりはまっているせいなんじゃないかと思う。単調という意味ではない。ここはこう盛り上がってもらいたい、ここはしっとり聴かせてほしい、ここはちょっとレトロな味付けが欲しい、そんな聴き手の勝手な期待をそのまま音の形にして取り出してくれるようなところがあって、だからこステップが目に浮かぶのではないだろうか。どう変化するか見当もつかない音楽では踊れない。

 マンハッタン・トランスファーもデビューから30年。でも円熟の境地という感じはしない。そこがいい。
posted by kiwi at 23:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | ボーカル

2009年10月04日

ノクターン/チャーリー・ヘイデン


ノクターン
Nocturne

チャーリー・ヘイデン(b)
ゴンサロ・ルバルカバ(p)
ジョー・ロヴァーノ(ts)
フェデリコ・ブリト・ルイス(vio)
パット・メセニー(g)
イグナシオ・ベロア(ds)



 なだらかで優しげな、イルカ同士みたいに似た曲想の演奏が続くので、アルバム1枚通して1曲みたいな感じがする。静かにして聴いているとだいたい途中で寝てしまう。ぼくにとっては「夜想曲」というより「子守歌」だ。

 といっても退屈という意味ではない。ゴンサロ・ルバルカバが早弾きを封印して、輪郭のはっきりした端正な音の粒で綴っていくバラードは、格調高い文芸恋愛小説みたいな風格がある。チャーリー・ヘイデンも、むかしはもっとヒネた音楽をやっていたような気がするけれど、こころを入れ替えたらしい。

 こういう音楽こそ、気力体力の充実しているときに正座して聴くべきかもしれない。
posted by kiwi at 13:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | ギター・ベース